最高裁による生活保護基準引下げ「違法」の判決に関する声明
2025/07/22
最高裁による生活保護基準引下げ「違法」の判決に関する声明
2025 年7月22日 貧困研究会運営委員会
貧困研究会運営委員会は、2025年6月27日 最高裁判所第三小法廷における「生活保護基準引下げ処分取消等請求事件」の「違法判決」を、高く評価する。
同判決は、「物価変動率のみを直接の指標としてデフレ調整をすることとした点において、その厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法というべきである」と示した。生活保護基準の設定・改定においては、従来から厚生労働大臣の判断の裁量権が広く認められてきた。それは同判決も同様であるが、生活扶助の老齢加算廃止の判断が争われた2012年の最高裁判決等の判断枠組みに照らして、特にデフレ調整の経緯について、与えられた裁量を逸脱・濫用するものであり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法と判断した。その判断枠組みとは、「被保護者の期待的利益についての配慮の要否等を含め」、「判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査される」というものである。この場合、生活保護基準のいわゆる「水準均衡」方式を、一般国民の消費水準との調整を図る方式であり、賃金や物価は、そのままで消費水準を示すものではない、と確認している点も重要である。
このことから、今回の判決は、本裁判はもちろん、過去の裁判を闘ってきた生活保護の利用者、支援されてきた弁護士、および取り組みに関わってきた全ての人たちのこれまでの尽力により得られた成果であると考える。そのことに深い敬意を表したい。
厚生労働省には、この判決を重く受け止めていただきたい。厚生労働省は速やかに謝罪するとともに、今後少なくとも次の3点の対応が必要である。1点目は、保護費減額の影響を受けた人々、その範囲と影響を受けた内容をできうるかぎり明確にすることである。影響を受けた人々は、過去から現在まで生活保護を利用していた人はもちろん、この保護基準減額によって保護を利用できなくなった人、そして保護基準に連動して利用基準を定めている制度の利用者にまで及ぶ。判決を重く受け止めるとすれば、影響の全貌を明らかにすべきである。2点目は、1点目の検証を踏まえ、影響を受けた人々に必要な補償を行うことである。3点目は、今後の保護基準の設定についてである。判決では、政策判断の基礎として「専門的知見」が重要とされた。「専門的知見」に立った今後の保護基準の設定、ひいては生活保護制度の運用が求められる。
なお今回の判決は裁判官の全員一致であるが、個別意見(判決文中の「反対意見」)として、「多くの生活保護受給者に重大な影響を与える2分の1処理の必要性と根拠については、行政の説明責任があるはずであるにもかかわらず、なぜ、それを基準部会にも国民にも秘匿する必要があったのかについても、説得力ある説明はなされていない。」という指摘がなされた。この指摘を真摯に受け止め説明責任を果たすと同時に、決定過程の透明性の確保に努めるべきである。
以上